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相続財産調査から遺産分割協議書作成までの流れと注意点

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遺産分割協議書をつくる前に大切なこと ― 相続財産調査の重要性

相続財産調査から遺産分割協議書作成までの流れと注意点

2025/04/28

身近な家族が亡くなり、いざ「相続」となっても、何から手を付けてよいか戸惑ってしまいますよね。相続が発生した直後にまずやるべきことと、遺産分割協議書(いさんぶんかつきょうぎしょ)の基本について、初心者向けにわかりやすく解説します。ポイントを押さえて、財産の調査から協議書の作成まで順序立てて進めていきましょう。

一樹行政書士事務所

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主に、相続に関わる相談に真摯に向き合い、ご家族それぞれの背景や想いに寄り添いながら的確な対応に行政書士として名古屋を中心に活動しております。相続人の調査や財産の確認はもちろん、他士業との連携により、相続業務を一括でサポートしております。

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目次

    相続が発生!まず何をすればいい?

    大切な家族が亡くなって落ち着かない中ですが、相続手続きを進めるために最初に確認・準備するべきことがあります。焦らず一つひとつ対応していきましょう。

    法定相続人の確定

    まず「誰が相続人になるのか」を調べて確定します。亡くなった方(被相続人)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(こせきとうほん)を役所で取り寄せ、配偶者や子どもなど法律上の相続人をすべて洗い出します。例えば前婚の子どもがいる場合など、戸籍をたどることで漏れなく相続人を確定できます。相続人全員が揃わないと話し合い(遺産分割協議)ができないため、この作業はとても重要です。必要に応じて戸籍謄本の取り寄せ方も市区町村役場で相談してみましょう(郵送請求も可能です)。

    遺言書の有無の確認

    相続人調査と並行して、被相続人が遺言書を残していないか探します。自宅の金庫や机の中、預金庫などを確認し、公正証書遺言の場合は公証役場でデータベース照会も可能です。遺言書が見つかった場合、その内容が法定相続人の話し合いよりも優先されます(ただし法定遺留分などの例外あり)。自筆の遺言書があれば、勝手に開封せず家庭裁判所で検認の手続きを行ってください。遺言書で財産の分け方が指定されていれば、基本的にはその指示に従って相続手続きを進めます。

    相続財産のリストアップ

    相続人と遺言の確認ができたら、遺産(相続財産)の調査に入ります。被相続人名義の財産がどんなものがどれだけあるか、また負債があるかを徹底的に洗い出しましょう。後の遺産分割や相続税申告に関わる重要なステップです。次のセクションで詳しく説明します。

    以上の3点を相続開始後できるだけ早く進めることが、スムーズな相続手続きの第一歩です。特に相続財産調査は、この後の判断(相続放棄をするか、誰が何を相続するかなど)に直結するため、早めに取り掛かりましょう。

    相続財産調査とは?なぜ必要?

    相続財産調査とは、亡くなった方が残した財産や負債をすべて明らかにする作業です。具体的には、銀行預金や不動産、自動車、株式、保険などのプラスの財産だけでなく、住宅ローンや借金、未払いの税金・医療費などマイナスの財産(負債)も含めて漏れなく洗い出します。どうしてこれが重要なのでしょうか?

    相続放棄や限定承認の判断材料になる

    相続人は、相続が発生したことを知った時から3か月以内であれば、家庭裁判所で相続放棄(一切の遺産を受け継がない)や限定承認(プラスの財産の範囲内で負債も受け継ぐ)を選ぶことができます。この「熟慮期間(じゅくりょきかん)」内に財産と負債の全貌を把握しないと、判断を誤るおそれがあります。例えば、後から多額の借金が見つかった場合でも、3か月を過ぎて単純承認(放棄しないこと)とみなされると、原則として負債も含めて相続せざるを得ません(民法第921条)【出典一覧】。財産調査によって「プラスよりマイナスが大きいから相続放棄しよう」「債務超過か不明だから限定承認しよう」といった判断が可能になります。

    遺産分割の円滑化

    遺産が何かわからなければ、相続人同士でどう分けるか話し合いようがありません。全員が納得する分割をするには、遺産リスト(財産目録)を作成し、各財産の内容や評価額を共有することが大切です。後から「○○銀行に別の預金が見つかった」「実は隠れた負債があった」と判明すると、せっかく作った遺産分割協議書をやり直す手間にもなりかねません。事前に漏れなく把握しておけば、安心して話し合いを進められます。

    相続税の申告要否の確認

    財産総額によっては相続税の申告・納税が必要になります。相続税には基礎控除といって一定額までは非課税になる枠があります。この基礎控除額は3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数という計算式で求めます【出典一覧】。例えば法定相続人が配偶者と子ども1人の合計2人なら、基礎控除額は3,000万円+600万円×2人=4,200万円です。遺産総額がこの額以下であれば相続税申告は基本的に不要ですが、超える場合は相続開始から10か月以内に申告と納税が必要です。財産調査をしておけば、相続税の対象になりそうか早めに把握でき、税理士等への相談準備もできます。

    要するに、相続財産調査は相続手続き全体の土台づくりです。時間はかかりますが、今後のトラブル防止とスムーズな手続きのために丁寧に行いましょう。

    では具体的に、どのように財産を調査していけば良いのでしょうか?次で代表的な項目と方法を紹介します。

    相続財産を調べる具体的な方法(チェックリスト)

    財産調査というと難しそうですが、一つひとつ確認していけば大丈夫です。以下に主な財産項目と調べ方のヒントをまとめました。

    銀行・郵便貯金などの預貯金

    被相続人が利用していた金融機関を洗い出します。通帳、キャッシュカード、銀行からの郵便物(取引残高通知や利息のお知らせ等)が手がかりです。最近はネットバンキングのみ利用のケースもあるので、パソコンやスマホの金融アプリ履歴なども確認しましょう。死亡届が出ると銀行口座は一時凍結されますが、後日相続手続きにより払い戻し可能です。銀行ごとの所定の手続き案内に従い、相続人代表として請求します。一般に必要書類は、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本、相続人全員の戸籍謄本および印鑑証明書、そして遺産分割協議書または金融機関所定の同意書です。例えば三菱UFJ銀行では、まず死亡の連絡をした上で案内に従い、相続人全員の署名押印入りの依頼書と戸籍書類一式、遺産分割協議書等を提出する流れになります。ゆうちょ銀行でも「相続確認表」の提出後に必要書類の案内が送られ、全相続人の同意を確認して払戻し手続きが進む仕組みです。不明な口座がありそうな場合、銀行協会経由で残高証明書を請求したり、ゆうちょ銀行では過去の取引有無を調べるサービスもあります。預金は額が多いと相続税評価の対象になりますので、死亡日時点の残高も確認しておくと良いでしょう。

    不動産(土地・建物)

    被相続人名義の不動産がないか調べます。自宅以外に土地やマンションを所有していなかったか、固定資産税の納税通知書や権利証(登記識別情報)を探して確認します。所在地が分かれば法務局で登記事項証明書(登記簿謄本)を取得して名義や権利関係をチェック可能です。所在不明の不動産については、市区町村役場で名寄帳(なよせちょう)を請求する方法があります。名寄帳とは、その市町村内で個人が所有する固定資産(土地・家屋)の一覧表で、被相続人の名寄帳を取り寄せれば、その市町村にある全ての土地建物がわかります。なお、不動産の評価額は相続税計算で必要です。土地については国税庁が毎年発表する路線価や評価倍率を用いて評価します。路線価とは主要な道路に面した標準的な宅地1㎡あたりの価額で、市場価格の約8割程度が目安と言われます。国税庁ホームページの「路線価図」を見れば、例えば被相続人宅の前面道路の路線価が1㎡あたり10万円といった情報を確認できます。建物については固定資産税評価額がそのまま相続税評価となります。こうした評価額はあくまで税務上の算定基準ですが、遺産分割の参考としても目安になります。

    株式・投資信託などの有価証券

    証券会社の口座や株式の保有がないか調べます。証券会社からの郵便物や取引報告書、配当金計算書が手がかりです。上場株式であれば証券会社で名義書換や残高証明を取得し、相続人への移管手続きを行います。未上場株式(同族会社の株など)がある場合は評価が複雑なので専門家に相談しましょう。投資信託や国債・社債についても口座を調べて残高証明を入手します。証券会社での相続手続きも、基本的には戸籍類と遺産分割協議書(または同意書)が必要になります。

    自動車・その他の動産

    自家用車やバイクが被相続人名義であれば、それも相続財産です。車検証で所有者を確認し、相続人への名義変更または売却手続きを行います。車の評価額は中古市場価格や査定額が参考になります。また貴金属や骨董品、ゴルフ会員権など価値のある動産もリストに入れます。評価が難しいものは専門業者に査定を依頼することもできます。祭祀財産(仏壇・墓地など)は法律上は相続財産ではなく、慣習に従い承継者が管理するものとされていますので、遺産分割協議の対象からは除かれます。

    生命保険金や退職金

    被相続人を被保険者とする生命保険があり、受取人が相続人の場合、死亡保険金が支払われます。これは契約上「受取人固有の財産」とされ、厳密には遺産ではありません(遺産分割の対象に含めない)が、税法上は非課税枠(法定相続人×500万円)を超える部分が相続税の課税対象になり得ます。大きな金額の場合は他の財産と合わせて考慮しましょう。同様に会社からの死亡退職金や弔慰金も支給されることがありますが、こちらも受取人(通常は遺族)の固有財産です。ただし、保険金や退職金は分配の公平感に影響するため、相続人同士の話し合いでは「○○さんは保険金を受け取るから、その分預金は少なめに配分しよう」といった調整がなされることもあります。

    借入金や負債の有無

    プラスの財産以上に大事なのが負債の調査です。住宅ローン、事業の借入、カードローン、クレジットカードの残高、未払医療費・税金など、思いつくものをすべて確認します。借金の契約書やカード利用明細、督促状などがないか遺品を整理して探しましょう。保証人になっていれば保証債務も相続されます。もし債務超過で相続放棄する場合、プラスの財産にも手を付けず迅速に家庭裁判所で手続きをする必要があります(うっかり財産を処分すると法定単純承認となり放棄できなくなるので注意)。どう調べても把握しきれない場合は、信用情報機関に情報開示請求をする方法もあります(生前の借入状況をある程度確認可能)。また、税金の滞納がないか役所で照会することも検討しましょう。負債も相続人が承継する(民法第896条)ため、これらを洗い出して初めて相続するか放棄するかの判断ができます。

     

    これらの項目をチェックし、**財産目録(ざいさんもくろく)**として一覧表にまとめておきましょう。財産目録には、不動産なら所在地と地番・地目・面積、預貯金なら銀行名と支店名・口座種別・口座番号と残高、株式なら銘柄と株数、借入金なら債権者名と残高…というように、項目ごと具体的に記載します。評価額も分かる範囲で書いておきます。後の遺産分割協議書にこの目録を添付するケースもあります。

    豆知識:法定相続情報証明制度

    戸籍関係書類が揃ったら、法務局で法定相続情報一覧図の写しを交付してもらうことをおすすめします。被相続人と相続人の続き柄を一覧にした公的書面で、相続手続きの際に戸籍謄本の代わりとして利用できます。無料で作成でき、複数発行も可能なので、銀行や証券会社など各所に提出する際に便利です(いちいち戸籍原本を何通も用意する手間が省けます)。法務局で戸籍一式と身分証を出せば発行手続きを案内してもらえます。

    ここまでで、相続人と遺産の全体像が把握できました。次はいよいよ、その遺産を「誰がどれを相続するか」話し合う遺産分割協議について見ていきましょう。

    遺産分割協議とは?

    遺産分割協議とは、複数の相続人がいる場合に、相続財産をどのように分けるか全員で話し合うことです。被相続人が遺言で明確に分配を指定している場合は基本そのとおりにしますが、遺言が無いか一部しか指定が無い場合、相続人全員で協議して決める必要があります。

    民法上の原則

    遺産は被相続人の死亡と同時に相続人に承継されますが(民法第896条)、相続人が複数いるときは遺産は共有状態になります(民法第898条)。共有状態の遺産を各自の単独所有に分けるために行うのが遺産分割協議です。協議には法律上の期限はありませんが、だからといって放置すると後々面倒が生じます。早めに話し合いを行いましょう。

    特別受益や寄与分の考慮

    話し合いの中で、公平を期すために特別受益や寄与分を考慮することがあります。特別受益とは、ある相続人が生前に被相続人から特別な利益を受けていた場合のことです(民法第903条)。例えば「長女の結婚資金として生前に500万円贈与していた」などが該当します。この場合、その500万円を仮想的に遺産に戻したうえで各人の相続分を計算し、長女には既に500万円渡してあるものとして残りを配分するといった調整をします(実際の計算は複雑ですが、イメージとして押さえてください)。寄与分とは、ある相続人が被相続人の介護や事業手伝い等で遺産形成に特に貢献した場合に、その人の取り分を増やす調整のことです(民法904条の2)。これも全員の合意事項として考慮できます。こうした事柄は法律用語が出てきますが、要は「生前の不公平や貢献度を考えて柔軟に決めましょう」ということです。

    遺産分割協議の進め方

    相続人全員(未成年者が相続人にいる場合は特別代理人を立てます)が話し合いの場に参加します。一堂に会するのが難しければ、電話やメール、書面でのやり取りでも構いません。重要なのは必ず全員の合意が必要という点です。一人でも反対者がいたり話し合いに参加していない相続人がいると、その協議は無効になります。まずは財産目録を共有し、「不動産は配偶者が取得、預金は子ども二人で半分ずつ」など各財産の配分案を出し合います。意見が割れる場合は、公平感のある法定相続分を参考にしたり、価値の高い財産を取得する人には代償金(現金)を他の相続人に支払って調整する方法(代償分割)もあります。また、不動産を売却して現金化し、それを分ける(換価分割)という選択肢もあります。それぞれの財産について「誰がもらうか」「共有にするか(おすすめしませんが)」「売却するか」話し合い、最終的に全員が納得できる結論を目指します。

    遺留分にも配慮を

    協議が整えば基本的に相続人全員の同意事項ですから問題ありませんが、もし極端な配分で一部の法定相続人の取り分がゼロまたはごくわずかになる場合、後々遺留分の主張が出る可能性があります。遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者・子・直系尊属)に保障された最低限の取り分のことです。もっとも、遺産分割協議は当事者全員が参加していますので、その場で遺留分の不満があれば主張されるでしょうし、協議書に同意した以上あとから法的に覆すのは困難です(遺留分減殺請求は主に遺言や贈与で一方的に削られたケースに使われます)。いずれにせよ、全員が納得した形で協議を終えることが円満解決のポイントです。

    遺産分割協議書の作成と使い方

    遺産分割協議書とは、今まで説明してきた協議の結果をまとめた書面です。口頭の合意だけでは後々証明ができないため、必ず書面に残します。形式に決まりはありませんが、一般的な遺産分割協議書の書き方・注意点を説明します。

    協議書の基本的な書き方

    題名と日時

    書面のタイトルはわかりやすく「遺産分割協議書」とします。冒頭または末尾に協議成立日(署名日)を記入します。

    被相続人の氏名(死亡時の本籍や住所、生年月日・死亡日を入れることも)を書き、「○○(被相続人の氏名)の遺産について、以下のとおり分割協議した。」などと続けます。

    全ての法定相続人の氏名と続柄を列挙します。「相続人 甲野太郎(長男)」「相続人 甲野花子(長女)」…のように記載します。誰が協議に参加したか明確にするためです。後段の署名押印欄だけでも法律上は良いですが、冒頭で一覧にした方が親切です。

    調査結果は、協議書にこう反映する

    調べた財産情報は、まず「財産目録」として整理しましょう。どんな財産があって、誰に渡すのか――それをはっきりさせておくことが、スムーズな協議書作成につながります。

    各相続人の希望や意向も考慮しながら、具体的な分配案を話し合い、その内容を協議書に盛り込んでいきます。
    このときも専門家のサポートを受けることで、法的に有効な形で書面を整えることができるので安心です。

    心部分です。遺産目録の各項目ごとに取得者を定めます。書き方は例えば、「一.○○県△△市□□番地所在の土地(地番〇〇、地目〇〇、地積〇〇㎡)および同所建物(種類〇〇、構造〇〇、床面積〇〇㎡)は、長男 甲野太郎が取得する。」、「二.○○銀行◇◇支店の普通預金口座(口座番号XXXXXX)に残存する預金債権は、長女 甲野花子が取得する。」といった具合です。預金や株式は「債権」として表現します。複数の財産をまとめて「すべて甲野太郎が相続する」でも構いません。財産ごとに誰に帰属させるかを明記しましょう。代償金の取り決めがある場合は「甲野太郎は甲野花子に対し、代償金○○円を支払う」といった条項を入れます。負債について特に定める場合(例:「○○銀行からの借入金は甲野太郎が全額返済する」等)も書きますが、協議で誰が負債を負担すると決めても債権者を拘束できない点には注意(債権者と協議が必要)です。

    付言事項(必要に応じて)

    協議書の末尾に、相続人全員の署名・実印押印をします。実印とは市区町村に印鑑登録した印影のことです。各自の署名の横に実印を押し、それぞれの印鑑証明書を用意します。金融機関や法務局への提出時には、この印鑑証明書(発行後3か月以内が望ましい)を添付する必要があります。相続人が遠方にいる場合は、協議書を郵送して署名押印してもらい、全員分の実印が揃ったら完成です。人数分の原本を作成し各自保管するか、1通の原本に全員分押印してコピーを取っておく方法があります(法務局に提出した原本は申請すれば戻ってきますが、手間を考えると最初から複数原本を用意して全員が保管する方が安心です)。

    署名押印時の注意

    日付は基本的に全員同一の日を入れます(実際の署名日が異なる場合でも一応合わせることが多いです)。訂正がある場合は、二重線を引いて訂正印(実印)を全員で押す必要があるため、書き損じには注意しましょう。用紙には余白を十分取り、改ざん防止のため契印(ページが複数になる場合、綴じ目にまたがって全員の印を押す)を施します。

    遺産分割協議書の効力と使いみち

    協議書が完成し相続人全員の実印が押されれば、それは法的に有効な契約書として機能します。以後はこの協議書に従って相続手続きを進めます。

    不動産の名義変更(相続登記)

    被相続人名義の不動産がある場合、法務局で所有権移転の相続登記をします。協議書(原本)と被相続人の戸籍謄本類、相続人全員の戸籍謄本・住民票・印鑑証明書などを揃えて申請します。協議書があれば、特定の相続人一人の単独名義にすることが可能です。2024年4月1日から相続登記が義務化され、相続開始を知った日から3年以内の申請が必要となりました【出典一覧】。協議がまとまっていない場合でも「相続人申告登記」という形でとりあえず法定相続人名義に変更する届け出が可能です【出典一覧】。いずれにせよ、不動産がある方は早めに名義変更しておきましょう。名義変更しないままだと、次の世代に相続が発生したとき権利関係が複雑化し手続きが困難になります。

    銀行預金の払い戻し

    各金融機関に協議書のコピーと必要書類を提出し、指定された相続人の口座に預金を振り込んでもらいます。協議書により「誰がその口座の預金を取得するか」が明記されていることで、銀行も安心して払い戻しに応じてくれます。協議書がない場合、銀行によっては相続人全員の署名捺印した所定書式の同意書を要求されるなど手続きが煩雑になります。協議書一通で済むのであれば作成するメリットは大きいです。

    有価証券等の名義変更

    証券会社や発行会社に協議書を提出し、指定の相続人名義に変更します。株式なら名義書換、投資信託なら口座移管、自動車なら運輸支局で名義変更登録をします。その際も協議書が証拠書類になります。

    その他の手続き

    生命保険金は受取人固有財産のため協議書対象外ですが、例えば死亡退職金を複数相続人で分配する場合などに協議書に明記しておけば、それぞれが安心して請求できます。また、相続税の申告をする際には、協議書がきちんとまとまっていることが前提となります。申告書に各人の取得財産を記載するため、もし協議がまとまっていないと申告内容も決まりません。遺産分割が申告期限(10か月)までに整わない場合、一部の税額控除(配偶者控除や小規模宅地等の特例)が適用できなくなることもあります。そうした意味でも早めの協議と協議書作成は大切です。

    ワンポイント:2019年の預貯金払戻し制度

    民法改正により、遺産分割前でも一定額まで預貯金を払い戻せる制度が創設されています。相続人は各自、預金残高の3分の1×法定相続分か150万円のどちらか低い額まで、家庭裁判所の許可なく引き出せます(詳細な計算省略)。葬儀費用の支払いなど、緊急にお金が必要なときに利用できる制度ですが、あくまで一部ですし利用には各金融機関での手続きが必要です。根本的な解決には協議書を作って正式に分割することが必要です。

    協議がまとまらないときは家庭裁判所へ

    話し合いではどうしても折り合いが付かない、相続人同士で意見が衝突して平行線…といった場合、無理に私的に解決しようとせず家庭裁判所の調停を利用する方法があります。

    遺産分割の調停

    相続人の1人または数人が申立人となり、他の相続人全員を相手方として、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。調停では調停委員(中立の第三者)2名と家庭裁判所の裁判官1名が間に入ってくれます。調停委員は当事者それぞれの言い分や事情を聞き取り、法律的観点も踏まえて解決案の提案やアドバイスを行いながら合意点を探ってくれます。裁判所というと身構えますが、調停はあくまで話し合いの延長で、和やかな雰囲気で進むことも多いです。遠方に住む相続人がいる場合は電話会議調停なども利用できます。

    調停の場では、遺産の範囲や評価額に争いがあればそれを整理し、誰がどの財産を取るかについても公平な視点で解決策を模索します。たとえば「不動産は売却し、その代金を法定相続分どおりに分配してはどうか」「この預金は長女さんに、多額の介護貢献があったので多めに配分してはどうか」等、調停委員から様々な提案がなされるでしょう。相続人同士だけでは感情的になってしまう争いも、第三者が入ることで冷静に話し合えるメリットがあります。

    調停不成立の場合

    調停でも合意に至らなかった場合、家庭裁判所は**審判(しんぱん)**手続きに移行します。審判では裁判官が双方の主張や事情を考慮した上で、法律に則って遺産の分割方法を決定します(いわば判決のようなものです)。審判で出た結論には強制力があり、相続人はそれに従うことになります。調停がまとまらず審判になってしまうケースは決して多くありませんが、最終的には裁判所が決める道もあることは念頭に置いてください。

    調停や審判になる前に、弁護士や司法書士など専門家を間に立てて話し合いを円滑にする方法もあります。当事者だけでは難しいと感じたら、早めに専門家へ相談することも検討しましょう。

    まとめ:財産調査から協議書作成までスムーズに進めよう

    突然の相続でも、ポイントを押さえて順序立てて進めれば大丈夫です。

    相続人の確定と遺言書の確認

    戸籍をたどって漏れなく法定相続人を洗い出し、遺言書の有無も確認します。まずは相続の登場人物とルールを把握しましょう。

    相続財産の調査

    プラスの財産もマイナスの財産も、すべてリストアップします。この作業が相続手続き全体の土台になります。基礎控除額を超える財産があれば相続税の準備も必要です。負債額次第では相続放棄も視野に入れ、3か月以内を意識して調査しましょう。

    遺産分割協議

    相続人全員で話し合って、誰が何を相続するか決めます。法定相続分は目安ですが、家庭の事情に応じて柔軟に決めて構いません。全員の合意が何より大事です。合意が難しければ家庭裁判所の調停という手もあります。

    遺産分割協議書の作成

    話し合いの結果を書面にまとめ、全員が署名・実印押印します。協議書があることで不動産登記や預金払戻しなど各種手続きがスムーズに行えます。法務局や銀行への提出書類にもなりますから、内容は正確に、印鑑証明書も忘れずに添付しましょう。

    各種名義変更と手続き完了

    協議書に従って、不動産の相続登記、預貯金の分配、株式の名義変更などを行います。相続税の申告が必要なら税務署へ申告し納税します。すべて完了したら、各自で協議書や戸籍のコピーを保管し、将来に備えておくと安心です。

    まとめ

    かなり長くなってしまいましたが、最後までお読みいただいて本当にありがとうございます。

    相続財産のボリュームや相続人の数によっては、ご自身で作成される方もいらっしゃるのがこの遺産分割協議書です。この記事がご自身で作成される方のお役に立てれば嬉しいですし、少し財産の種類が多いな、とか相続人が何人もいる、みたいな時は是非、当所にご相談ください。

    面倒な書類集めから、協議書作成、他士業との連携による不動産登記、税務相談まで一気通貫でサポートさせていただきます。

    出典一覧

    民法(明治29年法律第89号)第896条・第903条・第921条等(e-Gov法令検索)
    法務省:不動産を相続した方へ(相続登記の手続案内、令和6年相続登記申請義務化に関する情報)
    国税庁:No.4152「相続税の計算」(基礎控除額の算出方法)
    国税庁:財産評価基準書「路線価図・評価倍率表」(相続税路線価の公開サイト)
    日本司法書士会連合会:相続登記相談センター特設サイト「相続する人」(相続人調査と財産調査の解説)
    三菱UFJ銀行:相続手続きのご案内(必要書類と手続の流れ)
    ゆうちょ銀行:相続手続きに関する必要書類のご案内(貯金等の相続手続き方法)
    裁判所:相続の放棄の申述(家庭裁判所での相続放棄手続き案内)
    裁判所:遺産分割調停の手続き(家庭裁判所における遺産分割調停の説明)

    一樹行政書士事務所

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