相続トラブルを未然に防ぐ!遺言書と遺留分についての注意点
2025/04/27
大切な家族の間で起こりがちな相続争いは、「争族」とも揶揄される深刻なトラブルです。今まで仲の良かった親族同士でも、財産分けを巡って骨肉の争いに発展してしまうことほど悲しいことはありません。こうした争いを未然に防ぐため、遺言書を準備しておくことが非常に重要です。遺言書があれば、遺産の帰属をあらかじめ具体的に決めておくことができるため、相続手続きをスムーズに進めることができ、争いの発生を防止できます。実際、法務省も公正証書遺言(後述)を作成しておくことは相続争いを防ぎ、権利の迅速かつ的確な承継に極めて有効だとしています。この記事では、相続トラブル防止の要となる「遺言書」と「遺留分」について、基本知識と注意点をわかりやすく解説します。
目次
遺留分とは何か?~法定相続人に保障された最低取り分~

遺留分とは何か?その基本的な理解
遺留分(いりゅうぶん)とは、民法によって定められた、特定の相続人に保障される最低限の相続取り分のことです。被相続人(亡くなる方)は本来、遺言によって財産の配分を自由に決めることができますが、遺留分制度により、配偶者や子どもなど一定の近親者には遺産の一部が法律上確保されています。言い換えれば、法律が用意した「家族のための取り分の安全網」です。
では誰に遺留分が認められるかというと、配偶者、子ども(直系卑属)、父母などの直系尊属がこれに当たります。一方で兄弟姉妹には遺留分は一切認められません。遺留分の割合は相続人の構成により異なりますが、原則として遺産全体の2分の1(1/2)、ただし相続人が直系尊属(親など)のみの場合は**遺産全体の3分の1(1/3)**となります。例えば、配偶者や子どもがいるケースでは遺産の半分が遺留分として保障され、直系尊属しか相続人がいないケースでは遺産の3分の1が遺留分となります。兄弟姉妹しか相続人がいない場合は法律上の遺留分はゼロです(遺言者が兄弟姉妹に全く財産を残さなくても構わないということです)。
このように遺留分は、残された配偶者や子どもの生活保障や、相続人間の衡平を図るために設けられた制度です。遺言によって法定相続人の取り分が極端に減らされてしまうと、生活に困ったり不公平感が強まったりする恐れがあります。遺留分制度は、「遺言の自由」(財産を自由に処分できる権利)と「家族の保護」のバランスをとるための仕組みと言えるでしょう。

遺留分侵害額請求と2019年民法改正のポイント
遺留分を持つ相続人の権利を実現するためには、遺留分侵害額請求(いりゅうぶんしんがいがくせいきゅう)という手続きを取る必要があります。遺言書がある場合でも、もしその内容が遺留分を侵害していれば、侵害された相続人は遺産を多く受け取った人に対して不足分に相当する金銭を請求することができます。これが遺留分侵害額請求権であり、請求された側(遺言によって多くの財産を得た人)は、たとえ故人の遺言があってもその請求に応じなければなりません。遺留分を侵害する内容の遺言書が残されていたとしても、その遺言書自体は形式要件さえ満たしていれば法律上有効です。ただし、実際に遺留分を受け取るかどうかは侵害された相続人が請求するか次第なので、遺言の内容どおりにいかない可能性があるという点に注意が必要です。

★2019年の改正前後の違い
2019年の民法改正以前は、遺留分を侵害された相続人は「遺留分減殺請求権」という権利を行使し、贈与や遺贈で取得された財産自体を取り戻す(減殺する)ことで遺留分を確保する仕組みでした。これが2019年7月の法改正により見直され、「遺留分侵害額請求権」として金銭債権(お金で埋め合わせる請求)に一本化されたのです。改正後は、侵害額に相当する金銭の支払いを請求できるようになり、遺産分割のやり直しではなく金銭補填による解決が図られるようになりました。この変更により、遺留分を巡る紛争がより迅速かつ明確に解決しやすくなると期待されています。例えば、改正前は不動産など現物を取り戻すケースもあり揉めやすかったところ、改正後は最初からお金の支払いで解決するため、相続人同士の話し合いもしやすくなっています。(※遺留分権利者が請求できる期限は改正前後で大きく変わっていません。相続開始と侵害を知ってから1年以内、または相続開始から10年で時効消滅となります。)
遺言書の種類と法的効力

遺言書には法律で定められた方式があり、大きく3種類に分類されます。いずれの方式も民法で厳格な形式要件が定められており、その方式に従わない遺言書はすべて無効となってしまいます。極端な話、「亡くなる前に本人がこう言っていた」といった口頭の伝言や、録音・ビデオ映像などは法定の方式を満たさない限り遺言として法的効力を持ちません。正しい方式に則った遺言書を作成することが、相続トラブル防止の大前提です。ここでは代表的な遺言書の種類とそれぞれの特徴を解説します。

自筆証書遺言(じひつしょうしょゆいごん)
最も手軽に作成できる方式の遺言書です。遺言者本人が全文・日付・氏名を自書(自分で手書き)し、押印して作ります。費用もかからず、自宅でいつでも書ける手軽さがありますが、その反面、形式不備による無効リスクや紛失・改ざんの危険、死後に家庭裁判所で検認(遺言書の存在と内容を確認する手続き)が必要になるデメリットがあります。※2019年の法改正により方式が一部緩和され、財産目録(財産一覧)についてはパソコンで作成したものを添付することも可能になりました(各ページに署名押印が必要)。また、令和2年(2020年)7月からは法務局で遺言書を預かってくれる「自筆証書遺言書保管制度」がスタートし、自筆証書遺言を安全に保管できるようになっています。この制度を利用すれば遺言書の紛失・改ざん防止はもちろん、家庭裁判所の検認手続きも不要になるため、自筆証書遺言の弱点を補う画期的なサービスと言えます。

公正証書遺言(こうせいしょうしょゆいごん)
公証役場で公証人(法律の専門家である公務員)に作成してもらう遺言書です。証人2名の立会いの下、遺言者が口述した内容を公証人が筆記し、公証人・遺言者・証人が署名押印して作成されます(民法第969条)。【公証人連合会:遺言と公証役場】などでも詳しく説明されています。公正証書遺言は、原本が公証役場に保管されるため紛失や改ざんの心配がなく、家庭裁判所の検認も不要で、遺言内容の実現がスムーズです。費用はかかりますが信頼性が高く、法務省も相続争い防止の有効な方法として公正証書遺言の活用を強く推奨しています。確実に法的要件を満たした遺言を残したい場合は公正証書遺言が最も安全と言えるでしょう。

秘密証書遺言(ひみつしょうしょゆいごん)
遺言内容を誰にも知られずに作成できる方式です。遺言書の本文は遺言者が自分で書くかパソコンで作成し(署名押印が必要)、それを封筒に入れて封印します。その封印した遺言書を公証人と証人2名の前に提出し、自分の遺言書であることを確認してもらった上で、公証人が封紙に署名・押印することで成立します(民法第970条)。遺言内容を生前は秘密に保てるメリットがありますが、結局内容は自筆で用意しなければならず、さらに亡くなった後に家庭裁判所の検認が必要になるなど手間が多いため、実際に利用されるケースは多くありません。特殊な事情がない限り、一般的には上記2種類のいずれかで遺言書を作成するのが現実的でしょう。
遺留分を無視した遺言書が招くトラブル

遺言書は遺産の分け方を決める強力な手段ですが、遺留分を無視した内容の遺言は新たな火種になりかねません。先述の通り、遺言で遺留分を侵害された相続人は遺留分の取り戻し(侵害額請求)を行う権利があります。遺留分を請求された側にとってみれば、せっかく受け取った財産の一部を渡さねばならず、感情的な対立に発展する可能性が高いでしょう。「遺留分を侵害する遺言書は無効ではない」ため、遺言内容そのものは有効ですが、結局は家庭裁判所での調停や訴訟に発展してしまうケースも少なくありません。実際に「遺留分を無視した遺言書があったために相続人同士が争うことになった」というトラブル事例は多く報告されています。遺産を巡る揉め事が長引けば、相続手続きも滞り大きな精神的・金銭的コストがかかってしまいますし、何より残された家族の人間関係に深い溝を残してしまいます。
遺言作成時に遺留分へ配慮すべきポイント

では、せっかく遺言書を作成するなら、どのように遺留分に配慮すれば「争族」を防げるのでしょうか。ポイントはシンプルで、初めから遺留分を侵害しない内容の遙言にしておくことです。遺留分権利者(兄弟姉妹以外の法定相続人)に最低限の取り分を確保してあげれば、そもそも遺留分請求が起こり得ないため、相続人間の争いは格段に生じにくくなります。

例えば「全財産を妻に相続させる」という遺言内容では子ども達の遺留分が侵害されてしまいますが、「妻に大部分を相続させるが、全体の一定割合は長男・長女にも相続させる」という形で各自の遺留分相当額を遺言に盛り込んでおけば、子ども達としては法定の取り分を主張できる余地がなくなり、争いは起きなかった可能性があります。実際の事例でも、妻以外の相続人である子ども2人にそれぞれ遺産の8分の1ずつを相続させる内容にしておけば(=子ども達の遺留分を満たす配分)、遺留分を巡るトラブルは回避できただろうと指摘されています。このように、各相続人に遺留分だけは確保する配分にしておくことが「もめない遺言」を作成する上で何より重要です。

もちろん、家族事情によっては「あえて特定の相続人に多く残したい」「問題のある子には最低限も渡したくない」といったケースもあるでしょう。しかしその場合でも、遺留分を請求されたときに備えた対策を講じておくことが大切です。例えば、遺留分を少なくされる可能性がある相続人に対しては生前に十分に気持ちを伝えて納得を得ておく、遺言書に付言事項(メッセージ)として「このような分け方にした理由や感謝の思い」を書き添えて理解を求める、といった工夫も有効でしょう。遺言書に気持ちを添えることは法的拘束力こそありませんが、受け取れなかった相続人の感情的なわだかまりを和らげ、遺留分の主張を思いとどまらせる効果が期待できます。いずれにせよ、「自分が亡くなった後に家族に争ってほしくない」という思いで遺言を書くのであれば、各相続人の遺留分に最大限配慮した内容にすることがベストと言えるでしょう。
専門家に相談するメリット

遺言書と遺留分について理解が深まったところで、最後に専門家に相談するメリットについて触れておきます。遺言書の作成は自分一人でも可能ですが、法律の素人が完全に有効な遺言書を書き上げるのは容易ではありません。ちょっとした形式の不備で無効になってしまったり、遺留分への配慮不足で結局争いになってしまったりするリスクがあるためです。そこで頼りになるのが、相続分野の専門家(行政書士・司法書士・弁護士、公証人など)です。専門家に相談すれば、遺言の文案作成から必要書類の手配、そして遺留分も踏まえた適切な財産配分のアドバイスまで、トータルでサポートを受けることができます。法律のプロの知識を活用することで、形式面でも内容面でも万全な遺言書を準備でき、結果的に「争族」の芽を摘むことにつながるでしょう。

例えば行政書士は、遺言書の文案作成や必要な戸籍収集など手続き面でお手伝いできます。また、公証人と連携して公正証書遺言を作成したり、司法書士や税理士とも協力して相続登記や相続税対策まで見据えた総合的な支援を行うことも可能です。専門家に依頼することで、最新の法律改正にも対応した適切な遺言作成ができ、残されるご家族にとって最善の結果を用意できる点は大きなメリットです。実際、「遺言書を作成する際は法律上の要件を守り、内容や遺留分にも十分配慮することが重要であり、そのため専門家に相談しながら作成することをおすすめします」といった提言もなされています。将来の安心のためにも、遺言書作成にあたってはぜひ専門家の力を積極的に活用すると良いでしょう。