行政書士と司法書士:その違いと依頼できる業務について詳しく解説
2025/04/26
相続手続きや各種の役所への届出などを進める際に、「行政書士」と「司法書士」という専門家の名前を耳にすることがあります。どちらも法律に関する手続きを代行してくれる心強い専門職ですが、その業務範囲や得意分野には大きな違いがあります。本記事では、初心者の方にもわかりやすいように行政書士と司法書士の役割や依頼できる業務内容の違いを解説します。相続のケースを中心に、具体的な例やケース別の使い分け、資格制度の違い、依頼する際のポイントについても丁寧に説明します。
目次
行政書士とは?その役割とできる業務

行政書士
行政書士(ぎょうせいしょし)とは、行政書士法(昭和26年法律第4号)に基づく国家資格者で、「街の法律家」とも呼ばれる存在です。主に官公署(国や都道府県、市区町村などの役所や役場、警察署等)に提出する書類の作成や手続きの代理を業務としています。簡単にいえば、役所に提出する許認可申請などの手続きを専門に代行するプロです。
行政書士に依頼できる主な業務には次のようなものがあります。

官公署への許認可申請書類の作成・提出代理
例えば、会社を設立する際の定款認証手続や、飲食店営業許可・建設業許可など各種営業許可の申請、外国人の在留許可(ビザ)申請、自動車の登録や車庫証明の手続きなど、役所に出す書類全般の作成と申請手続きを代行します。行政機関への申請は種類が非常に多岐にわたり、その数は1万種類以上とも言われますが、行政書士は幅広い分野の許認可手続に精通しています。

契約書や内容証明郵便など権利義務に関する書類の作成
個人間や企業間の各種契約書の作成も行政書士の業務範囲です。売買契約書、贈与契約書、金銭消費貸借契約書(借用書)、離婚協議書、営業譲渡契約書など、法律上の権利や義務を生じさせる文書を依頼に応じて作成してくれます。また、誰かに正式に請求や通知をしたい場合に出す内容証明郵便の文面作成も頼むことができます。自分で契約書を作るのが不安な場合や、法的に適切な文書を作成したい場合に、行政書士がプロの目線で文章を整えてくれるので安心です。

遺言書・遺産分割協議書など相続関係の書類作成
相続手続きに必要となる書類作成も行政書士の得意分野です。自筆証書遺言や公正証書遺言の作成支援、相続人全員で遺産の分配内容を決めた合意書である遺産分割協議書の作成、相続関係説明図(家系図のように相続人を証明する資料)の作成などを依頼できます。遺言書については、公正証書遺言を作成する際の証人を引き受けることもあります。相続人同士がもめていない段階であれば、こうした書類の準備を行政書士に任せることでスムーズに相続手続きを進めることができます。
司法書士とは?その役割とできる業務

司法書士(しほうしょし)とは、司法書士法に基づく国家資格者で、行政書士と同じく「街の法律家」と呼ばれる法律専門職です。ただし、司法書士の守備範囲は主に司法手続や登記手続に関するものとなっており、行政書士とは得意分野が異なります。簡単にいえば、不動産や会社の登記(権利登録)手続きや裁判所に提出する書類作成の専門家です。
司法書士に依頼できる主な業務には次のようなものがあります。

不動産登記の申請代理
家や土地など不動産の所有権移転や抵当権設定などの登記申請を代理するのは司法書士の代表的な業務です。不動産を売買したり、相続で名義変更したりする際には法務局での登記手続きが必要ですが、これを本人に代わって申請することができます。例えば、住宅ローン完済時の抵当権抹消登記や、新しく土地・建物を購入したときの所有権移転登記などは司法書士の専門領域です。登記申請は法律に基づく正確な書類作成と手続きが求められるため、一般の方が自力で行うのは難しく、司法書士が代理人として登記を確実に完了させます。

商業・法人登記の申請代理
会社や法人を設立したり、役員変更や本店移転など会社の情報を変更したりする際にも登記手続きが必要です。司法書士は株式会社や合同会社などの会社設立登記、役員の改選登記、会社の合併・解散に伴う登記など、法人に関する登記申請も代理できます。例えば、これから起業する場合には定款の認証(これは公証人の仕事)後、法務局への設立登記申請を司法書士が代行してくれます。行政書士が扱う許認可手続きが「官公庁向け」であるのに対し、司法書士は法務局(登記所)への手続きを専門としている点が大きな違いです。

裁判所や検察庁に提出する書類の作成
裁判所に提出する訴状や調停申立書、自己破産や相続放棄の申立書といった法的書面を作成する業務も司法書士が行えます。自分で裁判を起こしたり調停を申し立てたりする場合、法律的に適切な書類を用意する必要がありますが、司法書士に依頼すれば書類作成のプロとして助言を受けながら準備できます。ただし、司法書士は書類作成までで、実際に裁判で代理人として相手と争うこと(法廷での弁論など)は原則できません(後述の例外を除き、法廷での代理業務は弁護士の専権業務です)。
行政書士と司法書士の業務比較表

依頼したい手続き・業務 |
行政書士に依頼できるか | 司法書士に依頼できるか |
官公庁への許認可申請 | 〇(専門分野) | ×(できない) |
不動産の登記(名義変更や抵当権設定等) | ×(できない) | 〇(専門分野) |
会社・法人の登記 | ×(できない) | 〇(専門分野) |
契約書の作成 | 〇(対応可能) | 〇(対応可能※) |
内容証明郵便の作成 | 〇(対応可能) | 〇(対応可能) |
遺言書の作成支援 | 〇(対応可能) | 〇(対応可能) |
遺産分割協議書の作成 | 〇(対応可能) | 〇(対応可能※) |
裁判所に提出する書類の作成 | ×(できない) | 〇(専門分野) |
簡易裁判所での代理人業務 | ×(できない) | 〇(認定司法書士のみ) |
※司法書士も契約書や遺産分割協議書の作成自体は可能ですが、それ単独で依頼を受けるより、不動産登記手続きや相続手続きの一環として作成するケースが一般的です。
上記の比較から分かるように、行政書士は官公庁への提出書類全般に強く、司法書士は登記や裁判所関係の書類に強いという大きな違いがあります。契約書作成や遺産分割協議書作成については行政書士の代表的業務ですが、司法書士も関連業務としてそれら書類を用意することがあります。ただ、例えば「契約書を作りたい」という単発の依頼であれば行政書士にお願いする方が一般的でしょう。一方、「不動産の名義変更をしたい」「会社を登記したい」という場合は司法書士でなければ対応できません。このように、手続きの種類によって適切な専門家が異なることを念頭に置いておくことが大切です。

資格制度の違い(試験・独占業務など)
試験の難易度と範囲
司法書士試験は合格率3~5%程度と極めて難しく、登記法や民事訴訟法まで含む幅広い法律知識が求められます。行政書士試験は合格率およそ10%前後で、行政法や民法など基本的な法律知識を問う内容です。
ケース別:行政書士と司法書士、どちらに依頼すべき?

相続・遺言の場合
家族が亡くなり相続が発生した場合、遺産分割協議書の作成や相続人調査といった書類面のサポートをしてほしいなら行政書士に依頼するのが適しています。一方、不動産の名義変更(相続登記)を完了させたい場合は司法書士でなければ対応できません。一般的には、相続が発生すると不動産の相続登記や銀行口座の名義変更など複数の手続きが必要になります。行政書士は遺産分割協議書の作成や戸籍収集による相続人確定作業を代行してくれます。作成された書類をもとに、司法書士が不動産登記申請を行うという形で行政書士と司法書士が連携して業務を分担するケースもあります。特に土地や建物が関わる相続では司法書士は必須と言えます。一方、不動産がなく預貯金の分配だけという場合は、行政書士に書類作成を頼んで自分たちで金融機関対応をする、という方法も考えられます。
遺言書の作成については、遺言書の文案作成や作成サポートを希望する場合は行政書士への依頼が一般的です。行政書士は遺言の内容を相談しながら、自筆証書遺言の書き方指導や公正証書遺言の証人引受けなどを行います。司法書士も遺言書作成に応じられますが、どちらかといえば遺言執行(遺言に基づく名義変更など)や相続発生後の手続きで力を発揮します。生前の遺言準備は行政書士、遺言に基づく手続完了まで見据えるなら司法書士という使い分けになります。

不動産の売買・名義変更をしたい場合
土地や建物の売買、贈与、離婚による財産分与など不動産の名義変更(登記)が必要な場合は、司法書士に依頼してください。不動産登記の代理申請は司法書士の独占業務であり、行政書士には行えません。例えば、マイホームを購入した際の所有権移転登記や住宅ローン完済時の抵当権抹消登記も含め、これら登記手続はすべて司法書士が担当します。行政書士は不動産登記には関与しませんが、不動産取引に付随する契約書類の作成を依頼できる場合があります。ただし、売買契約書などは通常不動産会社が用意するため、行政書士が出てくる場面は多くありません。不動産の名義変更=司法書士と覚えておけばよいでしょう。

会社・法人を設立したい場合
会社や法人を新たに作る際も、設立登記の申請は司法書士の担当です。株式会社や合同会社の設立登記を司法書士が代行し、設立後の役員変更や本店移転などの法人登記も継続して依頼できます。行政書士は会社の定款作成支援や、事業内容によって必要な営業許可申請(飲食店営業許可、建設業許可など)で活躍しますが、登記手続き自体は行えません。会社の設立時は司法書士、営業許可取得は行政書士と役割分担して依頼すると良いでしょう。
裁判所での手続きをしたい場合
少額訴訟など裁判所に提出する書類の作成や手続代理を依頼したい場合は司法書士が担当します。司法書士は訴状や調停申立書などの法的書面を作成でき、認定司法書士であれば140万円以下の民事事件に限り簡易裁判所で代理人となることも可能です。行政書士は裁判所への提出書類作成はできません。なお、140万円を超えるような本格的な裁判案件では司法書士でも代理できないため、弁護士に依頼する必要があります。
依頼先を選ぶポイントとまとめ

手続きの種類で判断する
基本的には「役所に出す書類の手続き」は行政書士、「登記や裁判所に関わる手続き」は司法書士と覚えておくと迷いにくいです。まずは自分がやりたいことがどちらのカテゴリに属するか考えましょう。本記事の比較表やケース別解説も参考に、該当しそうな方を選びます。

複合的なケースはワンストップサービスも検討
相続や会社設立など、行政書士と司法書士の両方の分野にまたがるケースもあります。その場合、どちらに先に相談すべきか迷うかもしれません。最近では、行政書士と司法書士の両資格を持つ事務所や、同じ事務所に行政書士と司法書士が在籍しているところもあります。このようなワンストップで対応できる専門家に依頼すれば、窓口を一本化できて便利です。もちろん、それぞれ別の専門家に依頼して連携してもらう形でも問題ありません。

相談は早めに
手続きによっては期限があったり、事前準備に時間がかかったりするものもあります。専門家に依頼するか迷っているうちに時間が過ぎてしまい、結果として慌てるケースも少なくありません。不安がある場合は早めに行政書士や司法書士に相談だけでもしてみることをおすすめします。相談だけであれば初回無料で対応している事務所もあります。話を聞いてから正式に依頼するか決めても構いません。
出典一覧
日本行政書士会連合会(https://www.gyosei.or.jp)
総務省「行政書士制度の概要」(https://www.soumu.go.jp/main_content/000270038.pdf)
日本司法書士会連合会(https://www.shiho-shoshi.or.jp)
法務省「司法書士制度について」(https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00056.html)
行政書士法(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC0000000004)
司法書士法(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000197)